まりもガールズ 〜白老に行く〜


7月の初旬の夜。

阿寒にもようやく夏が訪れていました。
ここ阿寒の夏は夜になると気温は落ち、半そででは寒いくらいなのですが
それでも皆が待っていた夏には変わりありません。

まりもガールズの二人は
阿寒湖の温泉旅館でお唄や踊りのショーを行い、
お客さんからのおひねりで生計を立てています。

二人のよき理解者だった板前さんは東京にいるそうです。
前に届いた手紙には、「東京でがんばっている」とだけ書いてありました。
ふたりはその手紙を宝物のようにしまってあります。

やさしかった老人会のおばあちゃんは昨年の冬に風邪をこじらせてしまい亡くなりました。
あまりに突然の出来事に、まりもガールズにはそれが信じられません。
おばあちゃんが亡くなってからというものは老人会では催しものがほとんど無くなりました。
このためまりもガールズたちのショーもなくなってしまいました。

しかしめげてばかりいられません。

まりもガールズたちには以前とは違いすごいものがあるのです。
それは自分たちの住む「家」です。

「家」といっても、ずっとだれも使っていなかった小さな物置小屋だったものですが
それを二人はショーで貯めたお金を全部つぎこんで買いました。
ふたりにとってそれは大変な買い物で、何日も何日も話し合いを重ねて決めたことです。
なので、この家が自分たちのものになった時の二人の喜びようは相当なものでした。

家の扉を開けて何度も出たり入ったり、外から小屋を眺めてにやにやしてみたり
天井の板の数を何度も数えたりと、飽きもせずに二人は家を見つめていました。

家があるのとないのとでは、雲泥の差があります。
雨露をしのげるだけではなく、「まりもショー」の練習も誰に遠慮することなくできるのです。
ふたりは自分たちの家を手に入れたことが誇らしく、
ショーの練習にも自然と熱がはいりました。

☆☆☆☆☆

まりもガールズたちのご自慢のお家から温泉街までの途中には小学校があります。
学校に通ったことのないまりもガールズは、
小学校をなるべく見ないようにして歩いていました。
見てしまうとうらやましいという気持ちがでるかもしれないからです。

しかし誘惑にかられて、ちらりちらりと二人は学校を見ながら歩いています。
休み時間は、みんなが校庭で鬼ごっこやら、おしゃべりやら、サッカーやらをしています。
その中でいつもぽつんと一人だけいる女の子が見えました。

その女の子だけは、いつも誰とも話をしていなく
ただどうしてよいのかわからずにいるような気がしました。

まりもガールズたちは毎日小学校前を通るたびに、
その女の子がどうしているのかと思いました。
小さなスケッチブックのようなものに絵を描いているときもあれば、
ずっと立っているだけの時もありました。
いつもその女の子は一人でいました。

☆☆☆☆☆

まりもガールズは「まりもショー」をやらせてもらうために
ひとつひとつ旅館にお願いに歩いてまわります。

まりもガールズは毎日旅館に顔を出し続けました。
もちろん簡単に仕事はもらえませんが、それでも毎日顔をだしていると
急遽ショーをやるはずの歌手が倒れてしまい代役を探していたり
大嵐で音楽隊の飛行機が来れなくなったときの代わりなど
の仕事にありつけることもありました。

しかし、ここのところは不調でした。

来る日も来る日も旅館をまわるのですが、ことごとく断られるのです。

なかにはいじわるをする人もいるものです。
仕事をだすつもりもないのに何時間も玄関に立たせたままにしたり、
小さい二人を見えなかったフリをして蹴飛ばされたりもします。

この時は旅館のおじさんが
おじぎをしているまりもガールズに「バーン」とドアを思い切り叩きつけました。
二人は驚いて動けなくなってしまい、自然とポロポロと涙がでていました。

するとどこからともなく
いつも黄色のエプロンをしたおばあさんがでてきて二人を慰めてくれました。
そして帰り際にはポケットから飴玉をくれました。

まりもガールズたちはそれを不思議に思いながらも
いつも飴をほお張りながら家に戻るのです。
世の中いじわるする人ばかりじゃありません。

やさしいひともいるのです。

☆☆☆☆☆

この日もまりもガールズたちは営業まわりで新しい旅館を訪ねていました。

「まりものショーはいかがですか」「うたやおどりをいたします」

応対してくれた人はまだ若い男の人です。
そのひとは簡単に「じゃ今日の夕方6時にやってみてください。
1回だけですけど。」といいました。
まりもたちはしばらくあっけに取られましたが、
すぐに気を取り直し何度も何度もお礼をいいました。

ショーが決まってしまえば、こっちのものです。

会社の親睦会らしき団体さんたちを相手に、お唄や手品をどんどん披露していきます。
練習の成果がでたのか「まりもショー」は好評で、おひねりもたくさんいただきました。

ショーが終わったあと、まりもガールズたちは事務所に招かれ
「まりもショーを定期開催したい」といわれました。
まりもガールズたちがとても喜び、御礼をいいました。

すると若い男の人は上機嫌でいいました。
「おばあさんが一度みてあげて、ってあんまりにも頼むから見たけどね。良かったよ。」

「きいろのえぷろん の おばあさん か?」
とまりもの一人が質問をしました。
「そうそう。平田さんのおばあちゃん。湖の横にある家。」

ふたりはいても立ってもいられません。
旅館の人に地図を描いてもらい、旅館を飛び出しました。
地図の場所には、古びた木造の小さなお家が一つありました。

☆☆☆☆☆

曇りガラスのドアの前でまりもガールズたちは
「こんばんわあ」と大きな声を上げました。

「はあい」
とドアを開いた相手にまりもガールズたちは驚きました。
小学校でひとりでいるあの女の子だったのです。

女の子も目の前にいるちいさな二人組みにとても驚いて言葉を失っています。
すると黄色のエプロンをしたおばあちゃんが「あらま」と後ろから顔をのぞかせました。

☆☆☆☆☆

おばあちゃんの家は、古い木造の平屋でした。
通された畳敷きの居間には古めかしいタンスと
これまた古めかしいちゃぶ台だけがあります。

「そう、お礼にきてくれたのかい。」とおばあちゃんは、まりもたちにお茶をいれてくれます。
女の子は部屋の隅で一人で本を読んでいます。

まりもたちには聞きたいことがどんどん思い浮かびました。

どうしておばあちゃんはいろんな旅館で働いているのかとか
いつも黄色のエプロンなのかとか
いつもみかける女の子がどうしてここにいるのか、
ただ口下手なまりもたちはどう質問していいのかわからずに黙ってしまいました。
おばあさんもにこにこしながらも黙っているので

こちこちと時計の針が動く音だけがやけに大きく聞こえます。

沈黙にたえられなくなったまりもガールズは女の子にこういいました。

「がっこうでみたよ」「いつもえをかいてる」

しかし、女の子は本から顔を上げずに「そう。」とだけいったきりです。

またこちこちと時計の音だけが響きます。

まりもは頼み方がいけなかったのかと思い
「なんのえかおしえてください」とおじぎをしました。
でも女の子が聞こえないふりをしています。

「あら。絵なんて描いてるの?どんな絵なの?」とおばあちゃんが助け舟をだしてくれました。

すると女の子は
がばっと立ち上がり
「絵なんて描いていない!」
とまりもたちに怒鳴りました。
おばあちゃんもまりもガールズもとても驚きました。

☆☆☆☆☆

「せっかく来てくれたのに、すまないね。」
とおばあちゃんはいいました。

「本当はやさしい子なんだけど、阿寒にきてからは友達ができないみたいなの。」

おばあちゃんは、途中までまりもたちを送ってきてくれ、
その道中で女の子が白老町の母親と離れて暮らしていることを聞きました。

ふたりは無言のままお家に入りました。

今日は本当にいろんな事が起きた日です。
まりもガールズたちは、まりも帽子を脱いで棚においてふとんに入りましたが
なかなか寝付けません。

暗闇のなか「しらおいの え かな」とまりもの一人がいいました。
「おかあさんの え かな」ともう一人のまりもが答えます。
ふたりは悪い事をしてしまったと思いました。

☆☆☆☆☆

ふたりはショーで発表するおおわざ「まりもタワー」の練習のため近所の公園にいきました。
するとあの女の子がいるではありませんか。
一人でスケッチブックをもってベンチに座っています。

まりもガールズたちは、女の子にむかって走り出しました。

「まりも わるいこと いった!」
「ごめんなさい!」
と、わあわあ泣きながら謝りました。

女の子は足元で必死で謝るまりもたちの涙を指でふいてくれました。
そして「ほら」とスケッチブックをみせてくれました。

すてきな絵でした。
まるで湖の上に森や家があるみたいです。
青い空と緑の草原と湖が画面からぱぁっと華やいでいるようにみえました。
湖の真ん中にはボートのようなものも描かれてしました。
「白老のポロトコタンというのよ」と女の子は教えてくれました。

「きれいだね」とまりもがいうと女の子はにっこり笑いました。

まりもたちはショーの練習をみせるました。
女の子はとても喜びました。
まりもたちは、女の子のはじめて笑った顔をみました。

嬉しくなったまりもガールズたちは手品や唄などをどんどん披露します。
まりもガールズたちの真剣な出し物に女の子はとても関心しました。

女の子はお礼に面白い話をきかせてあげる、といいました。
これは女の子が白老のお母さんから聞いた話です。

☆☆☆☆☆
コロポックルとは"ふきの葉っぱの下に住む人"という意味です。

コロポックルは誰も姿を見たことがないのに、みんなが知っていました。
それは食べ物がなくて困っているといつの間にか
コロポックルが食べ物を運んできてくれるからです。
だからみんなコロポックルのことは不思議に思いながらも
とても感謝して語り継いできたのです。

あるとき、若者がこういいました。
「コロポックルってなんだ。誰もみたことがないなんておかしいじゃないか!」
それに対し長老は
「なにか事情があるのだろう。そっとしておいてあげるのが礼儀だ。」
と諭しました。
しかし若者は聞きません。
「いいや、絶対に姿をみてやる。」

若者は家に戻ると食べ物を全部隠しました。
そうして「ああ、おなかが減った。食べるものがないからもう寝よう。」と
大きな声をだして床に身を伏せました。

夜も更けたころ。
若者は窓から魚のしっぽがみえました。
(本当に来た)と若者はとても驚きました。
窓からは魚がちょっとずつ押し込まれて入ってきます。
若者はドキドキしながらも息を殺して窓の下へと移動しました。
よくみると魚をささえるちいさな手がみえます。
若者はその手をすかさず捕まえました。

「きゃ」という小さな悲鳴が起こりました。
小さな体が家のなかに引き込まれました。
若者はその姿をみました。

それはとても小さな姿の女の子でした。
本当にふきの葉っぱの下に住んでいるくらいの大きさしかありません。
若者が声を失っていると

女の子は悲しげな表情でこういいました。

「神様は私たちにこう言いました。
《魚が取れずに困っている人がいたら、助けてあげなさい。
でも姿はみられてはいけない。姿をみられたら、きっと帰してくれないだろうから。》」
女の子は続けます。
「私は姿を見られましたので、もうここには入れなくなりました。」
そういうと女の子は、外へと走り去っていきました。
若者はあまりの出来事に呆然とその後ろ姿を見送りました。

それからというもの、本当にいなくなってしまったのか
誰もその姿をみたものはいなくなりました。
(アイヌ民族のコロポックル伝説より引用)

「おわり。」と女の子がいいました。
☆☆☆☆☆

「はっぱのしたのおんなのこ!」とまりもたちは驚きました。

「すごいでしょ。」と女の子は自慢をします。
「びっくりした!」とまりもが手をあげます。
「私もびっくりした!」と女の子がいいました。
三人は大きな声きゃあきゃあいって笑いました。
もうすっかり友達です。

しかし急に女の子が顔を伏せました。

小学校の同級生の男の子たちが、こちらを見ていました。
まりもたちは失礼がないようにとお辞儀をしましたが、同級生たちはにやにやしています。
「あっちいこう」と女の子が公園を離れようとすると後ろから笑い声がしました。

「おまえんち貧乏だから修学旅行いけないんだろ」と聞こえます。

同級生たちの笑い声が公園に響き、女の子はそれを無視してどんどん歩いていきました。

まりもたちが追いかけても、女の子はそれも無視して歩いていってしまいました。

追いつけなくなったまりもたちが「またあした!」
といいましたが女の子はそのまま行ってしまいました。

☆☆☆☆☆

「ああ、平田さん所か、大変だよね、おばあちゃんも入院したし。」
と郵便屋さんがいいました。
この郵便屋さんは、とてもおしゃべりで気のいいおじさんで、
郵便物がきていなくても、まりもの家に遊びにきてくれます。

「にゅういん。。。」
「だってあのおばあちゃん一日に3つも仕事してるんだよ、あの年で。
孫の修学旅行代稼ぐってさ、でも結局自分の入院代になっちゃうんだからなあ。」

郵便屋さんが帰ったあと、まりもガールズは無言でした。
おばあちゃんは入院してしまい、女の子は修学旅行にいけなかったのです。
ふたりは教えてもらったコロポックルのことを考えていたのです。

☆☆☆☆☆

まりもガールズたちは、必死で働きました。
一日何公演もショーをこなし、合間をみては営業をかけます。
なにせ時間がありません。

徹夜が何日もつづくと不思議なことに指先の感覚がなくなってきて
肩がしびれて動かせなくなってきます。

それでもふたりは働きつづけました。
手が動かない時は唄の出し物に切り替え
声がでなくなればパントマイムのようなショーを演じました。

☆☆☆☆☆

「白老公演?」と女の子は目を丸くしました。
「なにそれ、白老でやるの?」と女の子は興奮気味に聞いてきます。

「まりもたち こまってる」とまりもガールズの一人はいいました。
「ばす のりかた しらない」ともう一人がいいます。
「そんなの簡単、降りるとき切符だせばいいの。」と女の子はいいました。

「まりもたち しらおい しらない。」
「しらおい ついてきて。」

まりもガールズの計画はこうでした。
まりもショーが白老公演を依頼されて招待されたと嘘をつくのです。
そして女の子についてきてもらい、小学校が修学旅行にいっている間に
白老に連れていってお母さんに合わせてあげるのです。
これなら学校を休むこともありません。

「でもお金ないし。」と女の子はいいました。
「ばすだい しらおい だしてくれるさ」とまりもは万歳の格好をしました。
「私の分も?」と女の子は不安そうに聞きます。
「まねーじゃあ のぶんもだしてくれるさ」ともう一人のまりもが万歳をしました。

女の子は大喜びで「おばあちゃんにいってくる。」と家に戻りました。
これで残すはバスの代金だけです。

まりもガールズたちは、一生懸命稼いだお金を全部もって
白老にいくバスを探しました。

☆☆☆☆☆

「まりもふたり と こどもひとり ください」
「あかん と しらおい いくやつ ください」
とまりもガールズはいいました。

バスの運転手さんは目の前の小さな女の子に驚いた様子でしたが
以前運転手仲間が「まりもガールズ」の話をしていたのを思い出しました。

「そうだねぇ。まりもふたりは、子供2人になるかな。全部で3人か。」
と手帳の料金表を読み上げました。
「子供往復で6000円、3人で18000円だね。」

まりもガールズたちは、ショックを受けました。
だって必死で集めたお金は8251円しかないのです。
これでは往復どころか片道分もありません。

しかしここで諦めるわけにはいきません。
「ばすで まりもしょー やります」
「ばす あらいも ばす みがきも やります」
「これで さんにん のせて ください!」とくしゃくしゃになったお金をだしました。

☆☆☆☆☆

「みゆきちゃ〜ん、阿寒・白老往復子供3枚ちょうだい。」
と運転手さんは切符売り場の受付にお金を出しました。
「あれ?田中さん。なんで切符買うんですか?」と売り場の女の人が聞きました。

いやそれがさぁ、といって運転手さんはまりもたちから聞いた事情を話しました。

最初は興味本位できいていた売り場の人も
「ちょっとやめてくださいよ。そういう話に弱いんですから!」とぽろぽろと涙を流します。

「いや、ちょうど1万円財布にあったらからさ。
飲み屋で使うよりいいだろって思ってさ。」と運転手さんは頭をかきました。

☆☆☆☆☆
阿寒→白老の都市間高速バスは
夜の11時に阿寒を出発して朝の6時に白老町につきます。

まりもガールズと女の子が乗り込むと
バスは夜の阿寒湖を沿って静かに走り出しました。
このあたりは夜の11時にもなると商店の電気も消えるので
そこらじゅうを暗闇に浸されてしまいます。

都市間バスは走り出すとすぐに室内の電気が消されます。
バスは夜通し走って、乗客たちは目が覚めると目的地につくのです。

電気が消されても三人の目は開いたままです。
女の子は窓からぼんやりとした闇をみていましたが
やがて「はやく寝ましょ。朝から会場チェックしなきゃ。」と女の子はささやきました。

まりもガールズたちは、あてのない白老公演について考えてしました。
連れ出す口実にマネージャーなんていってしまったために
女の子がとても張り切ってしまったのです。

地元阿寒でさえショーをさせてもらう会場をみつけるのは大変なのです。
それが全く知らない町で、いきなり飛び込みでまりもショーなんてできるのでしょうか?
仮にできたとしても、お客さんは入ってくれるのでしょうか。

まりもガールズたちは、そんなことをずっと考えています。
バスの中の温度は暑くも寒くもないちょうどいい温度を保っています。
運転手さんはお客さんの事を考えて、丁寧に静かに運転をしていて
心地良い振動が車内を包みます。

ひとりのまりもは目を閉じました。

もうひとりのまりもは、このままバスがずっと走り続けばいいなと思いました。
そんなことを考えているとバスの走る音が変わりました。
バスがトンネルにはいったのです。
夜のトンネルは不思議です。
トンネルの中はオレンジの光でできていて夜なのに明るいのです。
窓から繰り返し繰り返しオレンジが入ってきては気ぜわしく出て行きます。
どこまでもどこまでも下に下に向かって進んでいる気がしてきます。

もしかすると、このまま地下の不思議な場所にでもつくのかもしれません。

もうひとりのまりもも目を閉じます。
バスはどんどんトンネルを降っていきます。
やがて深く降りすぎたバスは地中の水脈へと達してしまい
バスの窓からは鈍い光を内在させた泡が通り過ぎていきました。

それでもバスは地中へと進み続けていき
ぼこん、という大きな空気の泡と供に湖の底へと吐き出されました。
湖の底はゆらぎすらなく青く輝き、静寂で荘厳な水質でした。

はるか上に阿寒湖の緑色の光がぽつんとみえます。
目の横にそらすとポロトコタンの湖が青白い光の点としてみえました。
阿寒湖もポロト湖もつながっていたのです。
およいでいけば いつだっていきき できるのかもしれません。。。。。。

☆☆☆☆☆
「白老にはいったよ!」
とまりもガールズたちは女の子に起こされました。
いつのまにかふたりとも眠ってしまっていたのです。

現実のバスは白老町の海岸沿いを走っていて、
朝の光が波にキラキラと反射していました。

「懐かしい〜。」
と女の子は窓におでこをくっつけて感嘆の声をあげています。
「皆様お疲れ様でした。まもなく白老に到着です。」
というバスのアナウンスが聞こえました。

(ついちゃった)

とまりもは少し苦しい気持ちになりました。
まりもショーをやらせてもらえる場所が見つかるのか、女の子に嘘がばれてしまわないか、
そう考えると二人とも無口になってしまうのです。

ぷしゅう、という息の抜けるような音を立ててバスが止まりました。

女の子はきっと
バスを降りてもだれも迎えにきていないことを不審に思うはずです。
それを聞かれたらなんと答えたらいいのでしょう。

まりもガールズたちが、考えがまとまらずまごまごしていると
みかねた女の子がまりもガールズたちを手に抱えて乗降口へと向かいました。

女の子がポケットから切符を渡そうとすると、運転手さんがポカンとした顔で外をみています。

バスの外には
「まりもガールズご一行さま歓迎」という手作りのカードをもって
待っている人たちがいたのです。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

実はこんなことがあったのです。
少し時間を戻し、バスの出発前の阿寒です。

直後の切符売り場。
「ん?どした?泣いてんのか?」と阿寒営業所の佐々木所長が聞きました。
佐々木所長はみんなから「鬼」と呼ばれるほど厳しい人ですが、
職員が泣いているとなると放ってはおけません。

泣きながら切符売りの人は事情をはなしました。
感激屋の彼女は話せば話すほどに、ぼろぼろと涙がでてきます。

黙って話を聞いていた佐々木所長は
「涙ふいてさっさと仕事に戻る」
とだけいってそのまま所長室にはいっていってしまいました。
そしてなにやら調べ物をはじめました。

☆☆☆☆☆
「おそいなぁ」と中村さんはつぶやきました。
さっきから、この電話が終われば帰ろうと思っているのですが
なかなか電話は終わりません。

電話を受けている金子さんは、しきりに頭をさげています。
手には直前に届いた何枚かのファックスをもっており「はい、はい」と
メモを取りながら返事をしています。

(よっぽど偉い人からだな)と中村さんは思いました。
ここ白老バス営業所はのんびりとした職場のため、
このふたり以外は定時ちょうどには
帰宅していて、金子さんの返事だけが響きます。

「はい、わかりました。必ず。はい、まかせてください。」
というと金子さんが電話を切りました。

「だれですか?」と中村さんはリックサックを背負いながらききました。
「鬼の佐々木所長。」と金子さんが答えました。
「佐々木さんて、阿寒の?」と中村さんは驚きました。
鬼の佐々木所長の名前は、ここ白老営業所にも響き渡っているのです。

「佐々木さんにたのまれちゃってさぁ。ちょっと手伝ってくんない?」
「なんですか?」
「中村さん、白老役場に知り合い居る?」
「役場ですか。観光課に後輩いますよ。携帯も知っています。」
「嘘でもいいから、まりもショーの場所をセッティングしといてくれってさ。」

☆☆☆☆☆

「まりもガールズご一行さま歓迎」の段ボールをもっているのは中村さんです。
(実は奥さんとふたりで手作りしたものです。)
金子さんは、手作りの「まりもショー開催のチラシ」を抱えています。
ほかにも何人かがお菓子などを手に持って出迎えにきてくれました。

昨日の夜ふたりは、知り合いに片っ端から電話をしてみんなの協力を仰ぎました。

「どうぞ、まずは会場をご案内します」と金子さんは
まりもガールズと女の子にいいました。

段ボールを掲げた中村さんを先導に、まりもガールズと女の子、
そして後ろの金子さんはチラシを配りながら歩いていきました。

まりもたちにはどうしてこんな事になったのかはわかりません。
女の子のほうを見上げてみると、女の子は商店の2階の窓から顔をだしている
おばさんと寝ている猫に手をふっていました。
おばさんも笑ってみています。

白老の町の7月は気持ちのいい日でした。
まりもガールズたちも、女の子も胸を張って歩きます。

海からの風をうけて街路樹がさわさわと小気味のいい音をたてます。
通り過ぎるのんびりとした街並みは、懐かしくやさしいたたずまいです。

ぽかぽかと気持ちのいい午後の陽射しをうけて歩きながら
みんなでこの町に来てよかったとまりもガールズたちは思いました。

線路の踏切を渡り神社の横を通り過ぎると
石造りの建物が見えてきました。
「ここは蔵(KURA)といいます。建造されて百年以上の石蔵を改修して
イベントホールにしたんです。
このメインホールでまりもショーやってくださいね。」

☆☆☆☆☆
会場は満席でした。

まりもガールズたちは、
いつものお唄と手品と、組み体操のような「まりもタワー」を披露しました。

沢山の拍手のなかの観客席をみると女の子がお母さんと一緒に手を振っています。

お客さんたちは
「昨日の夜に嘘のショーをやるのでなんとか集まってくれないか」
と電話をもらってやってきました。

でもどこが嘘のショーなのでしょう。
まりもガールズも女の子もお母さんもお客さんも熱中しています。
だれもがこの素晴らしい出し物に時間を忘れて
いつまでも喝采しつづけたのでした。

☆☆☆☆☆

翌朝。
白老の夏の朝は穏やかな空気のなかで
道路脇に設置されている花壇の赤い花も嬉しそうです。

まりもガールズと女の子とお母さんがみんなで手をつないで
バスがくるのを待っていました。

緑色の草がさわさわと音を立てていました。
女の子のお母さんがみんなにくれた飴玉を3人はほお張っています。

やがてバスが到着しました。
ドアが開くと「阿寒行きです。」とやさしい声がしました。
声の主はまたあの運転手さんでした。

まりもガールズたちは、女の子とお母さんの顔をじっとみつめました。
お母さんはいまにも涙を流しそうなのを必死でこらえています。

すると女の子は
「私このコたちのマネージャーだからいかなきゃいけないんだ」
といいました。

お母さんは何度もうなずきました。
そして「また白老に公演にきてね。」といいました。
女の子もまりもガールズも強くうなずきました。

そうして、バスは阿寒に向けて走りはじめました。

バスは白老の海岸沿いを走ります。

みんなでごろごろごろと静かに回転するエンジンの音を聴きながら
雲が移動していくのを見ています。
「またこようね」と女の子がつぶやくようにいいました。

返事をしようと見上げると女の子はすうすうと寝息をたて始めました。

まりもガールズたちは穏やかな寝息を聞きながら夏の空をみていました。

おわり。

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